批評/review

《 下道基行―時間の層の積重ね 》 尾形絵里子

 下道の作品はいわば、風景の向こう側にある物語にそっと気づかせてくれるものだ。新作《津波石》(2015-)は《torii》(2006-)の延長線上にあり、本展覧会にて、はじめて本格的に紹介する映像作品である。下道にとって新たな領域への挑戦となった本作について筆者ながらの“気づき”…

《「鑑賞体験」から「発見の実体験」へ 》 中尾英恵

机の上に、やや手のひらに収まりきらないくらいの大きさの石がある。これは、展覧会カタログの付録の石である。見た目に反して、ずっしりと重い。ダンベルに丁度いいかな、、、私の元にやってきた黒部の石との今後の行方について、頭の片隅で考えを巡らす。2005年のデビューから、およそ10年を経…

《「モノ」に潜在する機能に耳を澄ます 》 久保貴志

-Followed by English translation-  地球科学を専門とする私は日頃、露頭(岩盤が露出した崖)以外に関心を払うことはない。なぜなら露頭はその地域や日本列島の成り立ち、ひいては地球の歴史といった情報を持っているからだ。下道氏との出会いはそんな私に物事を…

《風景に折重なる不可視の物語 》 尺戸智佳子

-Followed by English translation-  風で飛ばないように物を抑える石、ちょっとした段差を解消するために挟まれる石、境界線をつくる石、隙間に敷き詰められた石、屋内においてはきっと漬物石にもなっている。昨年の夏、下道基行(1978−)は黒部市美術館付近…

《 その先の眺め 》 服部浩之

皆既日食で薄暗くなった白昼の空に花火を打ち上げ、その風景を眺め、響き渡る音に聴き入ったのは2009年の夏だった。花火は北九州市和布刈(めかり)公園の高台にある砲台跡地から打ち上げられ、我々は関門海峡を挟んだ下関側の戦争遺構跡がある火の山公園の展望台で、ビデオカメラを手にその様子を…

《 Time sharing 》 土方浦歌

-Followed by English translation-  下道基行は、記憶の共有のされ方を問いながら、歴史環境と他者との出会い、そして自らの主観がせめぎあう地点から生まれる痕跡を収集し続ける。大局的な立ち位置を俯瞰しつつ、日常を越えたスケールでの移動を繰り広げながらも…

《「torii」展によせて 》 後々田寿徳

 下道基行は岡山市で生まれ育った。家の裏山には操山古墳群があり、幼少期にはそれらを探検し、地図などを作ることに熱中したという。同古墳群には古墳時代前〜中期の前方後円墳などがあり、いくつかは石室が露呈していたらしいが、多くの名もなき後期の円墳などは、草木に埋もれていたのだろう。それ…

《torii》 西川美穂子

土方浦歌  下道基行は、すでにそこにありながら私たちに見えていない「かたち」を見せてくれる。日本国内に残された砲台や戦闘機の格納庫などを訪ねた《戦争のかたち》(2001-2005年)では、それらが農家の倉庫として利用されていたり、別の用途を持って風景の中に埋もれていたりするのをみ…

《 戦争のかたち/ Remnants 》 角奈緒子

–Followed by English translation– 「ある日、無骨で不自然な廃墟」、すなわち、弾痕が無数に残った変電所跡を見つけたことをきっかけに、「トーチカ」「砲台」「掩体壕」などのいわゆる戦争遺構を探す旅に出た下道は、2001年から05年にかけて撮影した写真を…

《 A面とB面、そしてそれらを結ぶ余白の物語 》 服部浩之

–Followed by English translation–  下道基行は旅するアーティストだ。文字通り各地に滞在し生活するなかで作品を制作する「旅人型」という意味もあるが、それ以上に「旅」に喩えることで、その創作活動は非常に捉え易くなる。旅は、ある明確な目的地を設定しそこ…

《 風に吹かれて/ Blown away 》 高橋瑞木

–Followed by English translation– 本来なら、今回は第6回目のRe-Fortを元にした展覧会が開催されるはずだった。Re-Fortとは、下道が2004年より断続的に開催している、美術家や建築家など複数の参加者とともに、砲台跡や掩体壕といった戦争遺跡…

《「美しいと言うこと」の自由について/3人展「NOWHERE」》   高橋瑞木

「美しいと言うこと」の自由について 「美しい」ということについて、Mami、下道基行、そしてmamoruの作品を通して考えてみようと思う。なぜなら、私たちは最近アートを見ても「美しい」とは言わなくなっているから。「美しい」の変わりに、最近よく使われるのは「興味深い」という言葉だ、…

《 bridge 》 飯沢耕太郎

gallery αMで開催されている、3人のキュレーターによる連続企画展「成層圏 Stratosphere」。今回は高橋瑞木のキュレーションで、「風景の再起動」の3回目として下道基行の作品展が開催された。下道は2004年から日本各地に残る戦争遺跡を「再利用して」記録していく「Re…

《 物語となった記憶 / Memories transformed into stories 》 竹久侑

–Followed by English translation–  考古学者になりたかった下道少年は、カメラをもったアーティストになった。だが、感心を寄せる対象は少年時代とそれほど変わっていないとみえる。下道基行は、特有の歴史や記憶が有形無形に遺る場を訪れ、その場や物がたずさえ…

《 『Pictures』-VOCA展 》 廣瀬就久

–Followed by English translation– 下道基行が撮影する対象は、自身の旅のなかで発見した、意外と思われる風景である。そのうえで彼が注目するのは、その風景が内包する過去の記憶である。 彼がこれまで継続的に撮影してきたものに、戦後およそ60年を経て廃墟と…

《『Pictures』-VOCA展2008 》 池端はな

上野の森美術館で「VOCA 展2008」が開催されている。VOCA展は全国の美術館学芸員・ジャーナリスト・研究者などに40才以下の若手作家の推薦を依頼し、その作家が平面作品の新作を出品するという方式で行われており、今年で15回目を迎えるものである。賞は「VOCA賞」1名、「VOC…

《 untitled(torii) 》 岡本芳枝

『untitled(torii)』と題された写真を見ていくと、異国の風景の中に突如として「鳥居」が写り込んでいる光景に衝撃を受ける。ジャングルのような森の中に埋もれるように、あるいは半ば家の構造物として取り込まれているような形で、さらには、横倒しになったままベンチ代わりに使われて…

《 写真集『戦争のかたち』 》 大竹昭子

 表紙を見てヨーロッパのどこかの写真だろうと思ったが、ちがった。北海道の十勝沿岸。四角いコンクリートはトーチカだ。 えっ、どうして日本にトーチカが?太平洋戦争で上陸戦が行われたのは沖縄だけで、原爆が落ちて降伏したので本土に米軍は上陸しなかった。だが軍部はもしもの場合を考えて全国の…

《 写真集『戦争のかたち』 》 金原瑞人

 大戦末期、戦闘機を敵機から守るべく建造された掩体壕の中は、畑や農業倉庫になっているらしい。(記事に付けられた写真の)原画はカラー。各地のトーチカや砲台跡などを、柔らかな色調でとらえた写真を収録する。戦争遺跡の粛然とさせるような存在感にモノクロで迫るのとは別種の、新たな視点を感じ…

《 写真展『Bnkers』/「HIDDEN DIMENSION」展内展示 》 暮沢剛巳

 戦争が終わって既に半世紀が過ぎ去った。だが下道基行の遺跡写真は長年のあいだ凍結保存されていた戦争の記憶を鮮やかに蘇らせる。下道に鋭い視線が追求するもの、それは言うなれば「トーチカの考古学」だ。 暮沢剛巳(美術評論家)

《 写真展『戦争のかたち』INAXギャラリー 》 入澤ユカ

 ある日掩体壕や滑走路、トーチカなど、戦後まもなく生まれの私でさえほとんど見たこともない構築物ばかりを写したファイルを持って、若い作家がやってきた。紙焼写真に写っていたものは、道路を跨ぐように建設された弓形の曲線の奇妙なかたちの開口部をもったものや、海辺の突端に置き去りにされたよ…

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