批評/review

《 写真集『戦争のかたち』 》 金原瑞人

 大戦末期、戦闘機を敵機から守るべく建造された掩体壕の中は、畑や農業倉庫になっているらしい。(記事に付けられた写真の)原画はカラー。各地のトーチカや砲台跡などを、柔らかな色調でとらえた写真を収録する。戦争遺跡の粛然とさせるような存在感にモノクロで迫るのとは別種の、新たな視点を感じさせる。
 著者は1978年生まれ。取材・撮影を始めたのはピザの宅配中、ある戦争遺跡に出会ったのがきっかけだという。いわば偶然の体験から出発したことが、目の前にある戦争遺跡の姿を率直に見つめる視線につながっているのだろう。砲台跡はしばしば花壇に転用されている。掩体壕に住んでいる人もいる。戦争という非常時の建造物はいまや戦後の日常風景と不思議な形で同居している。
 それが戦後60年を迎える現在の、一つの「戦争のかたち」なのだろう。戦争の記憶がどのような形で存在するか、どう伝えていくのか改めて考えせられる一冊でもある。

金原瑞人 『読売新聞』2005.8/14

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