批評/review

《 写真集『戦争のかたち』 》 大竹昭子

 表紙を見てヨーロッパのどこかの写真だろうと思ったが、ちがった。北海道の十勝沿岸。四角いコンクリートはトーチカだ。
 えっ、どうして日本にトーチカが?太平洋戦争で上陸戦が行われたのは沖縄だけで、原爆が落ちて降伏したので本土に米軍は上陸しなかった。だが軍部はもしもの場合を考えて全国の沿岸に無数のトーチカを造っていた。つまり使われなかったトーチカである。
  弾痕が残る廃墟を見て戦争の遺構に興味を持ち、もっと見たくなってバイクで全国を探してまわったと書いている。トーチカだけではなく、砲台、戦闘機を格納する掩体壕、兵器の試験場などを撮り集めた。
 こういう旅の興奮は理解できる。ハンティングの喜びに近い。ひとつ見るともっと見たくなる。探しにくいものほどおもしろい。だが、問題はどうとるか、撮られたものをどう編集するかだ。
 この本はその点が明快である。ひとつひとつに展開図がついている。トーチカならばどれくらいのサイズで、壁の厚みはどうで、入口はどこにあるかということが描かれている。砲台や掩体壕は現在どう使われているのか図解も載っている。つまり一個の建造物として見ているのだ。
 戦後六十年の間に日本の風景は劇的に変わったが、これらのコンクリート製品は壊そうにも壊せない堅牢さゆえに生き残った。物置になったり、倉庫になったり、ベンチになったり、人の住む家になったりしている。著者はむしろそのことに注目し、おもしろがっている。モノがたどる歴史に惹き付けられているのだ。
環境、建築、デザインとさまざまな方面にイマジネーションをかきたてる。その大元に戦争がある。

大竹昭子(作家)
『Esquire』(2005.OCT)

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