へそまがりの愚痴

そういえば、直島でプロジェクトを始める前に、下見をしながらアイデアを練っている時、
「写真館をやるのがいいのではないか?」と一瞬考えたことがある。
直島写真館。
普通に島で写真館をはじめて、ゆっくり時間をかけながら、島民の家族の写真を写真館として撮り続け、それが未来に島のアーカイブになっていくようなイメージ。凡庸なアイデア。だけどストレートなアイデアだと思った。

でも、調べてみると、すでに近所に住む女性が直島で写真スタジオを作ろうと計画していることが分かった。さらに、他にも島内には写真家やカメラマンを名乗る人が複数人いるようだった。
なんとなく、そのアイデアを凍結し、そこから別のアイデアを練り始め、人々から写真などを収集して保管しいていく今の資料館へと思考は変化していった。(その後、彼女の写真スタジオのアイデアが停滞している間に、もう一人のフォトグラファーが新しく移住してきて写真スタジオを始めようと今まさにうごいている。)

今、直島へは「何かが自分ではじめたい人」「何かアートが好きで何かやりたい人」が集まってくる。
「アートの島」直島の魅力に憧れて、ビジネスのチャンスを夢見て。
そして「直島アート○○」とか「直島○○」の取り合いをしている。小さな島なので早い者勝ちである。先にその名前と業種を取ってしまえば、ある意味で「成功」である。都会のような競争はない。
さらに、飲食やホテルなどの観光業は日々新しい業者が加速度的に蠢いているザワザワしている。人々の生活の積み重ねでできていく風景がどんどん変わって、生活感を失っていっている。いや、その新しい移住者がスクラップ&ビルドすることはこの島が細胞分裂しサイクルし生きているということなのかもしれない。
でも、僕はその中で、この島で自ら新しい何かを作ることを極力辞めてみようと考えた。まず、日々みんなが捨てるものや忘れられたものを集めることにした。そして、タイトルにも”直島”をつけなかった。美術館(アート)ではなく資料館にした。へそ曲がりなのだ。

「アートの島」ブランドをみんなで消費している今。それもそれぞれの人生だし僕が批判できることは何もない。それでいい。ただ、僕個人として、直島の好きな部分はいっぱいあるけど、小さな島で競争がない中で小さな牌を取り合って島内がビジネスでいつもザワついている、この現状は生活してて息が詰まるし、何か心配になる。

この現状に対して僕ができること/やろうとしていることは、「直島写真館」ではなく、結局考えた末に「直島写真研究会」を始めたように。つまり、お金のために専門性を奪い合うのでなく、専門性を持った上でそれを解放させて知識や体験を共有することで個々に学びが起こること、それを日常的に継続して行うこと、個々の参加者がそれぞれの仕事や生活の中でその学びがつながり広がること。もちろん僕も参加者一人として、これをしたい。この島での僕の活動である資料館や館長という立場は、それを可能にしてくれることに移住して1年くらいして気がついた。だから、僕は自分の専門性をここではビジネス(お店や学校)にしないで、「研究会」「部活動」として展開し、みんなと共有する実験場をしているのかもしれない。そこから僕自身が得られる学びも驚くほど多いから。(そして、その活動名には”直島”とつけるようにしている。なぜなら「直島○○」を私物化していないから。)

(もっと……付け加えるなら、僕自身が「アートの島」によって引き寄せられた漂着物の一つであることは自覚している。さらに僕の生業は”アート”であり”作品”を作ることで(も)あり、島での僕の行い自体が仕事でありビジネスでもある……が、僕自身がこの福武財団や直島の関係者からもらった機会を手に、今まさに家族や自分の人生を巻き込んでこの島で挑戦しているのは、僕も含め世界中の芸術祭で”アーティストたちが飛び回り””滞在地域をネタに作品を作る”ことを仕事にする現状に対して、(このコロナ禍も経て)疑問と批評性を持ち、その芸術祭的システムに乗らないで、”アート”を生業にする自分が”作品””作品制作”を通して、一体何が出来るかをみて見たい(し見せたい)のかもしれない。《瀬戸内「 」資料館》は直島に埋め込むタイムカプセルとして作っている。でも、出来る限り、可能な限り、ゆったりとした日常の時間の中で、ビジネスや搾取ではなく、地域と”物々交換”のような関係性をある意味で突き詰めて考えたいし作りたいと思っている。(だから、僕自身、アーティストというよりは郷土史家の意識でこの地域にいるし、資料館には外から観光客が来るより、移住してきた三菱の社員さんがふらり直島の勉強に来たり、直島の何かを調べに人が来ると、手応えと喜びを感じる。しかし、資料館も引いてみればやはりビジネス。いつまでこれを続けていけるのか。。それは日本中の美術館や資料館や図書館が持つ問題と同じであり、そこも考え、新しい道を見つけたい。))

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