『untitled(torii)』と題された写真を見ていくと、異国の風景の中に突如として「鳥居」が写り込んでいる光景に衝撃を受ける。ジャングルのような森の中に埋もれるように、あるいは半ば家の構造物として取り込まれているような形で、さらには、横倒しになったままベンチ代わりに使われているものもある。南国風のキリスト教の白い墓地の遠景白く塗られて立っているものも見える。その取り合わせを考えると、第二次世界大戦中に日本の占領下に置かれていた地域に、今も残る神社の跡であることに思い至る。
展覧会のために、下道基行本人が寄せたコメントには、「現在の国境線外側に残された鳥居」とあり、「占領下」「植民地」といった言葉を注意深く避けて説明がなされている。下道が、この写真が政治的な意図の下に撮影したものではないことも同時に伝わってくる。それで、私たちは『untitled(torii)』の写真から、かつて日本が多くの地域を侵略・占領したことの事実を改めて突きつけられるとともに、敗戦から60年を経て(撮影は2005年からはじめられている)、それぞれの地域で、異物でありながらも、その地の暮らしの中に奇妙に馴染んでいる姿に、人間のたくましさを思うのだ。
なお、下道には『untitled(torii)』に先立ち、日本国内に残る戦争遺構(トーチカ、軍用機格納庫、等)を写真とともにテキストと図解で示した本『戦争のかたち』(2005年)があり、注目を集めた。興味を抱いた事物に、等身大の日本人の「今」の視点から、対象を追っていく下道の次なるテーマにも目が離せない。
岡本芳枝(広島市文化財団学芸員)
HIROSHIMA ART PROJECT 2008