《瀬戸内「漂泊 家族」写真館》

今年の直島の展示が始まった。内容は、地域の人々の写真を風景と共に撮影して写真展を作り、さらに、展示期間中は資料館の中に写真スタジオを作り、実際に地域の写真館として稼働する。正直、こうなると思わなかった展開。興奮が止まらない。

資料館のプロジェクトがはじまった2019年からアイデアとしてあった「写真館」。
それは、僕が写真を撮るこということへの興味ではなく、地域の写真館の存在自体に強い興味があった。「あるくみるきく」1986年5月号 No.231に掲載されている「牛窓の写真館」の取材やSteidlから出版されていたダンスパーティーの記録写真がごっそり出てきた写真集(タイトル忘れた)などはそれをよく表しているが、写真館はその地域の人々の生活や肖像を記録するアーカイブの存在に時としてなっている。地域の写真館/写真屋さん自体は、七五三など人々のハレの日の家族写真や学校行事などの依頼を仕事として行う生業/ビジネスではあるが、時間を引いてみると、そこに無意識に蓄積される「地域の記録性」がありそこに興味があるのだ。(だから、資料館では早い段階から玉野など直島周辺の古い写真館への取材を考えていた時期もあったが、他の企画を実行する中で時が過ぎていた。)

僕が写真家として写真館を直島でやらない理由は、正直写真が下手だから。それは冗談ではなく本当に。あとは、僕の興味の対象は時間であり風景であり、人間の存在もその風景の一部であると言う感覚があり、だから、スタジオや背景をぼかし人の顔にフォーカスするポートレート自体に基本的にあまり興味がないのもある。(背景と人物が同等に写ってしまう。被写体が目を瞑ってようが気にならないし、逆に写真用の笑顔が好きじゃない。だから本当に無理。)

今回の展示の最初に考えていた目的/方向性は、「浜辺の漂着物から直島の生業の歴史を考える」と言うもの。その調査は2年前から始まっていたが、正直停滞していた。その理由は、たとえば、浜辺で拾った漁具を僕は見極める専門性を持っていないわけで、一つ一つ調べていくがこれをしててもプロの学者には敵わない。そこで、僕が浜辺の調査と生業のつながりを視覚化するが、その展示後半はマレーシアの作家ジェフリーを招聘して、漂着物からカメラを作って、直島の今、直島の人々や風景を写真にしてもらい、企画自体をまとめようと構想した。つまり、前半は漂着物調査と直島の生業年表など、後半は色々な職業の人々の写真展(しまけんの子供たちも協働する。漂着物に関する何かを。)。ただし、実際にジェフリーが来てから内容は大きく動いた。

2週間の滞在。ジェフリーがきてすぐにカメラになる漂着物を一緒に収集。すぐにカメラ制作に取り掛かる。最初の1週間で2つのカメラが完成した。翌週から直島島内で撮影を開始した。ジェフリーから、直島写真研究会やスタッフ、関心のある島民を集めて、写真のワークショップをしたい、と言われ、自己紹介も兼ねて歓迎会を開いた時のこと。彼はその場で、出来立ての漂着物カメラでその場で一人を撮影し、さらにその場で数分で写真プリントを制作してしまった。「簡単だから。みんなでやろうよ。教えてあげるからさ」と彼は言った。それ以来、ジェフリーや僕たちが制作するへんこつには、写真研のメンバーやスタッフが普段から遊びに来るようになった。ジェフリーはカメラ制作や暗室技術などを人々に教えていった。2週間滞在が終わる頃には、漂着物カメラを使って写真を撮ってプリントできる人が、僕も含め5-6人。ジェフリーが帰った後も、撮影は継続。この流れの中で、ふと思い出したのが「写真館」。「写真展」ではなく「写真館」にしてしまおうと企画がずれた。(しまけんの子供たちは漂着物を分類して、写真スタジオを作った。)展示は金曜日土曜日日曜日開館。土曜日だけ写真スタジオが開館する。

資料館は過去と現在を通なぎ、未来に放り投げるもの。
2年前に1950年代の直島を撮影した「直島どんぐりクラブ」を発掘して展示し収蔵した。半年前に自ら「直島写真研究会」を立ち上げた。今は奇妙なカメラを手に資料館は写真館と暗室になって、今の直島を記録しアーカイブする写真館が始まった。過去、現在、未来、全てがすべてが繋がってきている。

土曜日に、島民がスタジオに来てくれて、撮影をした。写真一枚はその場で現像した手の濡れたままでプレゼント、もう一枚は資料館のアーカイブとして展示していく。
島民の方をカメラ越しに覗き、暗室でプリントし、プレゼントしながら、一瞬、自分が本当の写真館の亭主になったような感覚がする。本当にその感覚があって、静かに感動していた。僕以外にも島民の撮影はできるので写真研やスタッフも撮影に入る。彼らも、何か特別な感覚を感じているようだ。
この写真館はビジネスではない、だから、その場でその被写体を喜んでもらうことはもちろんだけど、それ以上に、今を自分がそこに立っていて、ご近所さんを記録していて、それを未来に投げている感覚。写真館のある側面を肥大化させた妙な感覚。
今度、映画「SMOKE」をみんなで見たいなぁ。

まだ始まって1週間。まだ言語化できていないが。書き留める。

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